手順の一部と方法全体との一体不可分な関係による
複数主体方法特許権侵害の判断をめぐる問題の解決(三の二)
北京集佳知識産権代理有限公司 パートナー弁理士 王宝筠
四.「方法の使用」における「使用」の実現方式
上述のように、本稿では分析の結果、方法全体における一体不可分な手順の一部の使用も方法全体の使用を構成すると結論づけた。本稿のこの見解について考えられる疑問は次のとおりである。方法の使用においては方法の運用によって使用者のために役立つ働きを発揮する必要がある。単一主体による手順の一部の使用は当該手順の一部のみを運用させ役立つ働きを発揮させるが、その他の手順はその他の主体がこれらの手順を使用する必要があり、そうして初めて運用され役立つ働きを発揮することができる。そのため、方法全体が役立つ働きを発揮するという視点から言えば、単一主体は依然として、方法全体を運用させ役立つ働きを発揮させることはできない。これは複数主体方法特許権侵害の判断に対する従来の立場による見解でもある。
上述の従来の見解に対し、本稿では、「方法の使用」を議論する前提は、使用対象としての方法が「方法の実現」によってすでに運用状態にあると考え、手順に使用が存在することを当該手順が運用される前提としない。単一主体が方法における手順の一部のみを使用し、方法全体におけるその他の手順そのものが使用されなかったとしても(当該単一主体に使用されることを含む)、それ自体は運用状態にある。そのため、方法全体が運用の方式によって役立つ働きを発揮することに影響しない。方法が運用の方式によって役立つ働きを発揮するとき、使用者による方法(方法の手順)の使用は、方法(方法の手順)に支配関係が存在することによって実現される。これは実際のところ「方法の使用」における「使用」の実現方式に係る問題である。
1.方法を動かすまたは動的な状態を維持させるのは方法の「使用」ではない
「方法の使用」における「使用」の実現方式を議論するにあたり、まず、何が方法の「使用」に当たらないかという点を明らかにしておく必要がある。
本稿の見解は次のとおりである。上述の従来の見解で言及したように、方法における手順を静から動に転換させるまたは動的な状態を維持させるのが方法の「実現」であり、方法の「実現」を方法の「使用」と混同するべきではない。
まず、論理面から言うと、「方法の使用」の前提は使用の対象をまず先に有することであり、使用され得る方法が存在して初めて、当該方法の使用に言及することができる。これはまさに製品の使用と同じで、製造された製品があって初めて、当該製品の使用に言及することができる。方法の「実現」はまさに方法における動作を動かし、または動的な状態を維持させるといった発生方法の過程であり、それは製品の製造に類似する。一方、方法の「使用」は実現した方法の後続の使用である。よって、論理の前後関係から言えば、方法の「実現」と方法の「使用」は同一の概念に属さない。
次に、方法自体が運動状態であるという根本的な属性をないがしろしてはならない。「方法の使用」について言えば、使用される対象自体が動的属性を有する方法であり、手順を動かすこと、または動的な状態を維持させることを方法の「使用」であると捉えるなら、それは使用対象自体が運動状態の属性であることを否定することにほかならない。ここから分かるように、手順を静から動に転換させ、または動的な状態を維持させることは、方法の使用ではない。方法自体が運動状態の属性を有するからこそ、方法における手順を動かし、または動的な状態を維持させることが、運動状態を生みまたは維持する方法の「実現」過程となるのである。
上述の従来の見解は、まさしく方法の「実現」を方法の「使用」と混同しており、それにより「方法の使用」における判断の誤りが生じている。
ここから派生されるのは、方法における手順を静から動へと転換させ、または動的な状態を維持することが「使用」ではないとすれば、使用者が方法の手順について何らかの操作を行わなくても、この手順の使用を構成できるのかという問題である。これは実は方法の使用における「使用」の実現方式をめぐる問題に関係する。
2.方法の使用における「使用」は使用者による手順の支配関係により実現される
使用の定義は人または事物を何らかの目的のために役立てることである。本稿では、「使用」の鍵は使用対象に役立つ働きを発揮させることにあり、使用対象そのものが役立つ働きを発揮することができる状況において、使用者による使用対象の使用は使用対象の占有により実現され、このとき、使用者が使用対象に対していかなる操作も行う必要はないと考える。これは製品の使用を考えると理解しやすい。
例えばアロマ、鏡、時計といった製品の使用は、使用者がこれら製品に対して何らかの操作を行わなくても、これら製品自体が使用者のために役立つ働きを発揮することができ、使用者によるこれら製品の使用はこれら製品の占有によって実現される。占有によってこれら製品がほかではなく使用者のために役立つ働きを発揮する。方法の使用にも類似した状況が存在する。
方法の手順そのものが動的な状況においては、方法そのものがそれ自体の動的な実施に基づいて役立つ働きを発揮することができる。このとき、使用者による方法の使用は方法における手順の支配に基づいて実現される。このような支配は製品の占有に類似し、ある種の権利帰属関係の現れである。ゆえに、方法の使用において、使用者が方法に対して対応する行為をしなかった場合に方法(方法における手順)の使用を構成することは、成立可能である。
ここで注意すべきは、使用者の手順に対する支配の存在は、その多くが当該使用者が当該手順を実現することによって証明される点である。すなわち、使用者が手順を動かし、または動的な状態を維持させることにより、使用者と手順との支配・被支配関係が構築される。しかし、使用者による手順の実現行為は、支配関係の存在を確定するためにのみ用いられ、それ自体は手順の使用ではない。これは使用者がアロマという製品を購入した場合に類似する。購入行為によってアロマを占有したことを証明できるが、購入行為自体はアロマの使用ではない。よって、支配関係の存在を証明するために用いる行為を当該支配そのものに基づいて行われる手順の使用と混同するべきではない。
3.プログラムコードの組み込みは同様に「方法の使用」の実現方式である
上述したように、方法は運用状態によって役立つ働きを発揮することができ、実務においても、静的な方式によって役立つ働きを発揮することができる。これは「使用」の定義とも合致する。
同様に「使用」は対象、人、物を何らかの目的のために役立たせるものであるという定義に基づくと、当該定義は対象を何らかの目的のために役立たせるという結果によって使用を定義したものである。注意が必要なのは、ここでの「役立つ」は動的な形式かそれとも静的な形式かを限定していない。これはつまり、この2種類の役立つ形式によって定義される「使用」はいずれも実行可能であるということである。
しかしながら、実務においては通常、方法の使用を捉えるにあたり、使用の結果が方法の動的運用でなければならないと考えられ、これを「方法の使用」が存在するか否かを確定する唯一の基準とする。これは実はある種の限界性の考え方である。
このような限界性は、「製品の使用」は静的な製品を運用させることしかできないと考えられ、それにより自ずと「方法の使用」も同様に方法を運用させることしかできないと考えられる点に現れる。静的な製品を運用させることは確かに「製品の使用」の一つの使用方式であるが、唯一の方式ではない。例を挙げると、製品をその他の製品の部品として用いる場合も、当該特許製品の使用を構成するが、この「使用」の結果により、当該特許製品はその他の製品において静的な構造をとることが完全に可能であり、このとき、使用対象としての「製品」は動的ではなく静的に役立つ働きを発揮する。
上述の限界性の考え方のもう一つの由来としては、「方法の使用」と「方法」自体を混同し、つまり権利自体(使用)と権利の技術客体(方法)とを混同している可能性もあると思われる。こうした誤った混同に基づき、「方法」という対象に対する「使用」の結果を導けば、動的な運用結果という誤った結論にしかならない。
よって、「対象を役立てる」ことで当該対象の使用が存在するか否かを考慮するにあたっては、対象に動的な役立つ働きを発揮させることのみを、「使用」の存在を確定する唯一の可能性とするべきではない。「方法」という対象が動的な方式、静的な方式のどちらによって役立つ働きを発揮するかという視点から言えば、「方法の使用」における使用は2種類の具体的な形式を有することができる。
一つはそれ自体が「動的」な方法である対象を運用させる形式である。この場合の「使用」は上述のように使用者による方法の手順の支配に基づき、方法に動的な運用の方式で役立つ働きを発揮させることである。
もう一つの「方法の使用」の形式は方法という対象に静的な形式で役立つ働きを発揮させるものである。この場合、使用者はプログラムコードを組み込む行為により、動的な動作によって構成される方法を製品において実現の発動を待つ機能へと変えることができる。当該「使用」は使用対象(方法)に静的な形式、つまり製品機能の形式によって役立つ働きを発揮させる。これは同様に方法の使用の実現方式である。ただ、このような実現方式はもともと動的な属性を有する方法を動から静へと転換させ、プログラムコードにより、製品において発動を待つ機能として製品に組み込まれる。
プログラムコードの組み込みを「使用」の存在形式とすることは、最高人民法院の関連の判決にすでにある程度反映されている[1]。
4.複数主体方法特許の実現と使用
上述の分析に基づき、本稿では、複数主体方法特許について、異なる主体が当該手順を動かし、または動的な状態を維持させることに異なる手順がかかわる場合、当該複数主体方法特許は複数の異なる主体が共同で実現するものであると考える。言い換えれば、製品の製造において、複数主体が共同で製造することに類似する。このようなすでに運用を始めた複数主体の方法について、単一主体はそれが手順の一部に対して製品の占有に類似した支配関係を有することに基づき、当該手順の一部にそれ自身の運用によって役立つ働きを発揮させ、当該手順の一部の使用を実現することができる。また、当該手順の一部に対応するプログラムコードを対応する製品に組み込むことでも当該手順の一部の使用を実現することができる。当該手順の一部が方法全体の一体不可分な一部に属する状況において、当該単一主体による手順の一部の使用は方法全体の使用を構成する。
よって、複数主体方法特許について言えば、存在し得る状況は次のとおりである。複数主体が共同で方法を実現するが、単一主体が方法全体を単独で使用する。もちろん、当該方法全体に方法全体と一体不可分な複数の手順が存在するとき、これら手順の一部を個別に使用する主体は、方法全体の単独の使用も個別に構成する。
五.見解のまとめと文言侵害原則に関する分析
上述のように、本稿では、複数主体方法特許において、特定の手順が本発明の全体の有利な効果の実現についていうと、唯一の対応関係を有するとき、この手順の一部と方法全体との間には一体不可分な関係が存在し、この手順の一部の使用は実際には方法全体の使用であるとの考え方を提起している。
このような判断における考え方は、文言侵害原則に反するかというと、答えは「反しない」である。
前述の分析を行うと、方法の使用における「方法」が、実際には方法特許権の技術客体であり、使用の対象であることが分かる。本稿では、特許権侵害の判断を行うにあたって従う文言侵害原則の判断目標はまさしくこの技術客体であり、権利自体ではないと考える。
文言侵害原則で考慮されるのは、特許権の技術客体としての方法について文言侵害があったか否か、つまり特許発明の構成をすべて有している方法が使用されたか否かである。それは権利自体に対するものではなく、すなわち、方法の使用自体に対して適用する判断原則ではない。
これを理解するのはそれほど難しくない。文言侵害原則のさまざまな表現から、文言侵害原則で考慮されるのは使用される技術方案が特許の保護範囲に属するか否かである点が見て取れる。特許の保護範囲つまりクレームに現れるのは方法または製品そのものであり、これらはいずれも特許権の技術客体であり、「使用」という権利自体ではない。よって、文言侵害原則は「使用」対象が権利客体の保護範囲に属するか否かの判断原則である。文言侵害原則を「使用」の判断まで拡大させることは誤っている。
実際のところ、特許権においては、特許実施の類型自体が多様である。例えば、製品について言えば、製造、使用、販売などの権利侵害を構成する実施方式が存在する。実施の類型の多様性により、文言侵害原則で規定されるのは自ずともとから多様性を有する「実施」の文言侵害ではない。実際に、文言侵害原則でもこのような規定は設けられておらず、実施の対象、つまり特許権の技術客体について判断基準の規定がなされている。
本稿の判断における考え方に戻る。
本稿において、使用の対象は方法全体であるという点は終始変わらない。ただ、本稿では、使用者が方法全体の手順の一部のみを使用するとき、この手順の一部と方法全体との間に一体不可分な関係があれば、それはつまりこの方法全体の「使用」であると考える。使用者による「使用」が特許権侵害を構成するか否かの判断にあたっては、なおも手順の一部と一体不可分なその方法全体が方法特許の保護範囲に属するか否かを判断する必要があり、そうして初めて手順の一部と方法全体との一体不可分な関係に基づき、手順の一部の使用が実際に方法全体を対象とした使用であると確定することができる。これは文言侵害原則をまず利用し、使用の対象が権利客体の保護範囲に属するか否かの判断を行い、さらには使用者が用いる手順の一部が方法全体の一体不可分な一部に属するか否かを分析し、それにより当該一体不可分性を利用して使用者が方法全体を使用したという結論を導くものである。よって、本稿の判断における考え方は文言侵害原則に反してはいない。
文言侵害原則が複数主体方法特許権侵害の判断における中核的な要素であることから、本稿の考え方が文言侵害原則の要件に反していないことを説明するため、以下では例を挙げて説明を行う。
かりに、特定の方法特許のクレームに、ゲートウェイとサーバーの2つの実施主体が存在し、ここで、ゲートウェイの実施手順はabc、サーバーの実施手順はdとする。当該クレームには、複数の異なる実施主体によって実施される異なる手順が存在するため、複数主体方法特許に属する。このような複数主体方法特許については、権利侵害か否かをどのように判断するのか。
2つの段階に分けて判断を行うことができる。
第一に、実際の運用方法が確かに方法特許によって保護される方法であるか否かを判断する、すなわち、文言侵害原則を用いて特許権の技術客体としての方法について文言侵害があるか否かの判断を行う。実際の運用方法が確かに方法特許の保護範囲に属する場合は、本稿で述べた方法における手順の一部と方法全体との関係の判断を行う。逆に、実際の運用方法が特許の保護範囲に属しなければ、権利侵害か否かの判断を行う必要はない。
第二に、本稿の考え方に従い、特定の主体の使用する手順の一部と方法全体との間に一体不可分な関係が存在するか否かを判断する。例えば上述の例では、被疑侵害主体の支配の下でゲートウェイの手順abcを実施した。このとき、特許方法の全体の有利な効果を実現するために専門に提起された手順であるか否かについて、手順abcのいずれを分析してもよい。すなわち、当該手順は特許方法の全体の有利な効果を実現するためにのみ用いられ、ほかの方法に用いて対応する有利な効果を実現することはできず、それ自体の単独の有利な効果を実現することもできない。結論が肯定であれば、当該手順の一部(abcのうち少なくとも一つであることができる)と特許方法の全体の有利な効果との間には一体不可分な関係が存在し、さらには、方法全体との間に一体不可分な関係が存在するということになる。例えば、手順bと方法全体との間に一体不可分な関係が存在すれば、被疑侵害主体は手順bを使用し、方法全体を使用したことになり、特許権侵害を構成する。
上述の判断における考え方について生じる可能性のある疑義として、被疑侵害主体が手順bを使用しただけで方法全体の使用を構成すると判断できる、つまり当該被疑侵害主体による手順aとc(手順bと同じく、手順aとcはいずれもゲートウェイを動作の実施主体とする)の使用を考慮しなくても、当該被疑侵害主体が方法全体の使用を構成すると判断できるのであれば、これはつまり手順aとcがいわゆる余計に指定された技術的特徴ということになるのではないかという点がある。これは余計指定原則(不完全利用論)の残りかすではないか。
これは実のところ混同の産物であり、混同の対象は、方法全体との間に一体不可分な関係を有しない手順の一部、および方法における余計に指定された手順の一部である。
一体不可分な関係を有しない手順の一部は、このような手順が本発明の方法全体に唯一対応するものとして用いることができないというだけで、このような手順が本発明の方法に存在することを否定するということではない。
本稿の考え方は、一体不可分な関係を有する手順の一部について、このような手順の一部が方法全体における手順の一部であることを認め、このような一体不可分な関係を有しないとして、このような手順の一部が方法全体に存在することを否定する、というものではない。実際には、本稿の考え方は、方法のクレームにおいて限定される各手順を認めた上で、これら手順について、どういった手順の一部が方法全体において一体不可分であることができるかをさらに踏み込んで分析するというものである。このような分析は手順の一部の使用がほかの方法ではなく本発明という対象全体に対して行う使用であることを確保するためであり、手順の一部が当該方法全体に存在するか否かの分析ではない。
前述の疑義に戻る。当該疑義で指摘された状況について、被疑侵害主体が手順bを使用しただけでそれが方法全体を使用したと判断することができるが、これは手順aとcが方法全体に存在することを否定して得られた結論ではなく、手順bと方法全体abcdとが一体不可分な関係を有することに基づいて得られた結論である。本稿の考え方に基づくと、権利侵害の判断過程において、まず判断する必要があるのは、手順abcdについて文言侵害があるか否かであり、これには自ずと手順aとcを含む。文言侵害原則を満たす判断の結論を得た上で初めて、手順bと方法全体abcdとが一体不可分な関係を有するか否かを分析し、このような一体不可分な関係を有する状況においてのみ、被疑侵害主体による手順bの使用が方法全体abcdの使用であるという結論を導くことができる。
よって、表象から言うと、被疑侵害主体による手順aとcの使用を考慮する必要がないが、このような「考慮する必要がない」というのは、一体不可分な関係を有するか否かによって、どういった手順を使用した場合に初めて方法全体の使用を構成できるかを区分するときの「考慮する必要がない」であり、使用する方法がどういった手順を有するか、それにより文言侵害原則を満たすか否かを分析するときの「考慮する必要がない」ではない。手順aとcについては、本稿の考え方に基づくと、方法全体が方法特許の保護範囲に属するか否かを判断するとき、当然ながら考慮されなければならず、これは文言侵害原則を満たした状況での「考慮」であり、余計指定原則の残りかすではない。
注釈
[1]「深セン敦駿科技有限公司vs.深セン市吉祥騰達科技有限公司」(2019)最高法知民終147号判決を参照。
手順の一部と方法全体との一体不可分な関係による 複数主体方法特許権侵害の判断をめぐる問題の解決(三の一)
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