手順の一部と方法全体との一体不可分な関係による
複数主体方法特許権侵害の判断をめぐる問題の解決(三の一)
北京集佳知識産権代理有限公司 パートナー弁理士 王宝筠
要旨
本稿で議論する複数主体方法特許とは、方法特許のクレームに異なる実施主体の実施する複数の動作が存在することをいう。複数主体方法特許は特許権侵害の判断において困難に直面することが多い。被疑侵害主体は、複数主体方法特許のクレームにおける手順の一部を実施したのみであり、方法におけるすべての手順を実施したわけではないことから、特許権侵害の判断における文言侵害原則の要件を満たしておらず、その行為は方法特許の使用による侵害行為を構成しない旨を主張することが多い。
複数主体方法特許をめぐる上述の侵害判断の難しさについては、特許権の間接侵害を用いて特許権侵害の判断を行うべきとの見解があるが、特許権の間接侵害は理論、実務のいずれにおいても、必ずしも複数主体方法特許権侵害の判断をめぐる難題を解決する上での効果的な方法ではない[1]。
本稿では、複数主体方法特許権侵害の判断をめぐる問題を検討するにあたって間接侵害、共同侵害の考え方は取り入れず、方法における手順の一部と方法全体との関係に基づいて、複数主体方法特許権侵害の判断における考え方の筋道を立てることとする。
本稿の見解は次のとおりである。方法の使用において、方法は全体として「使用」の対象となる。使用者が方法全体の手順の一部のみを使用し、当該手順の一部が方法全体における一体不可分な一部である状況において、使用者による手順の一部の使用はすなわち方法全体の使用となる。これは使用者が製品の使用にあたって、製品全体における一体不可分な部品の一部のみを使用した場合に同様に製品全体の使用を構成するのと、理屈は同じである。本稿ではさらに、「方法の使用」と「方法の実現」を区別するべきと考える。「方法の実現」は(製造)方法の獲得であり、方法における手順を運用させる形、または運用状態が維持させる形で現れる。方法の使用は方法を実現した後に、すでに実現している方法に対して行う使用であり、製品の使用が製造済みの製品に対する使用であることに類似する。そのため、使用対象としての方法全体における各手順はそれ自体が運用状態にあり、単一主体が方法全体における手順の一部のみを使用したとしても、方法全体におけるその他の手順は当該主体に使用されていないからといって運用されていない状態になることはなく、単一主体が方法全体の手順の一部のみを使用した場合に方法全体の使用を実現できないという問題が生じることもない。考えられる疑問を解消するために、本稿ではさらに「方法の使用」における「使用」の実現方式について解説を行う。
以下では、本稿の見解について解説を行う。
一.「方法の使用」における基本的な問題
1.「方法の使用」における「使用」は方法における動作そのものではない
「方法の使用」において、「使用」は方法特許権が直接的に現れたものであり、「方法」は「使用」の対象であり、特許権が対象とする技術客体である。これに基づくと、「方法の使用」において、「方法」そのものが内包する動作は「方法の使用」における「使用」ではなく、「使用」と「方法」自体が内包する動作とを混同するべきではない。
2.「方法」自体が「動的」なもの
方法自体が運動状態にあることは言うまでもない。静的な製品と比べ、方法は動的な手順および手順間の実施順序関係から構成される。「方法の使用」に落とし込むと、方法を運用させることを「方法の使用」の実現方式とすることはできない。その理由は、こうした実現方式は実際には方法自体が運動状態にあるという根本的な属性を否定することになるからである。
上述の結論は本稿の後続の分析につながる。
二.方法は全体として使用される
「使用」の意味は、人または物などを何らかの目的のために役立てることである[2]。使用対象としての「人または物」は、「使用」において全体として現れる。本稿では、「使用」が存在するか否かを確定するにあたり、使用対象の各構成部分について個別に使用が存在するか否かではなく、使用対象という全体について使用が存在するか否かを分析するべきであると考える。
対象全体をその構成する各部分に分解し、さらにはそれら構成部分にその使用がそれぞれ存在するか否かを個別に分析する。これは実際には各構成部分によって「使用」の新たな対象が形成され、こうした新たな対象によって、これら構成部分のそれぞれの使用を検討するということである。こうした複数の部分に対する複数の使用によって形成されるのは対象全体における各構成部分に対するそれぞれの使用からなる使用の集合であり、対象全体に対する使用ではない。「集合の使用」を対象全体の使用と混同すれば、対象全体の使用の成立条件を誤って引き上げるだけである。
使用対象を全体としてその使用を検討するとは、「製品の使用」を考えると理解しやすい。
例えば、灯火装置、アクセル、ブレーキ、ワイパーを有する自動車の場合、この自動車を使用するというのは、自動車という全体に対する使用である。こうした使用は自動車の運転過程においてアクセル、ブレーキを使用することや灯火装置、ワイパーを起動することでもよければ、もちろん、運転過程において灯火装置やワイパーのみを使用することでもよく、ひいてはこうした車両を運転するのみで、ワイパーや灯火装置を起動しない場合も、当該自動車の使用となる。上述の自動車の使用において、自動車は全体として現れ、考慮される使用は自動車という全体に使用が存在するか否かであり、「使用」が当該自動車の各構成部分に作用し、それによりこれら構成部分が個別に「役立つ」働きを果たすことは要求されない。
あるいは、「使用」と使用の対象としての「製品または方法」との関係を次のように理解することができる。「使用」は「方法または製品」という対象全体に施すものであり、「使用」と「方法または製品」との間には作用点が存在する。この作用点は「方法または製品」の各構成部分であることもできれば、「方法または製品」の特定の部分であることもでき、これらはいずれも「使用」が「方法または製品」という対象全体の使用であることの成立に影響しない。
「方法の使用」に戻ると、方法の使用の要件を満たすか否かを確定するにあたり、方法全体における各手順についてすべて使用されることを要求する必要はなく、特定の主体によって方法全体における手順の一部のみがその使用下において使用者のために役立つ働きを発揮したとしても、当該特許の方法全体の使用を構成することができる。これは製品における部品の一部のみが役立つ働きを発揮した場合に同様に「製品の使用」を構成することに類似する。手順の一部にのみ施した使用が方法全体の使用でもあることをどのようにして証明するのかというと、これは手順の一部が確かに方法全体の「一部」であることを証明する必要があり、これこそ実務において複数主体方法特許権侵害の判断を行う上での重点である。
三.方法の全体性の分析
製品は有形である。有形の製品において、製品の一部と製品全体との関係は一目瞭然である。そのため、製品の一部の部品の使用が製品全体の使用であると判断されやすい。
方法は製品と異なり、無形である。こうした無形の特性によって方法の一部と方法全体との間には製品のような有形で、直観的な接続関係が欠けており、これにより特定の手順が方法全体に属することを直観的に観察することは難しい。しかし、それは方法における手順の一部が方法全体に帰属するという事実に影響することはない。ただ、この事実を実務において証明、明示することが求められる。
手順の一部が方法全体に帰属するという結論を導く上で証明する必要があるのは、手順の一部と方法全体との間に一体不可分な関係が存在するという点である。このような関係が存在する場合、それが目に見えなくても、この手順の一部の使用はすなわち方法全体の使用である。これは製品における一体不可分な部品の一部を使用した場合に同様に製品全体の使用を構成するのと、同様の理屈である。
「一部」と「全体」との一体不可分な関係を確定するには、一つの手がかりが必要となる。この手がかりは方法全体に由来するものであり、方法全体によって達成される有利な効果(「全体の有利な効果」という)をこの手がかりとして用いることができる。全体の有利な効果は方法全体に由来し、手順の一部と全体の有利な効果とが一体不可分であれば、当該手順の一部は方法全体と一体不可分である。
操作レベルでは、特定の手順の一部が本発明の全体の有利な効果を達成するために特別に提起された手順であるか否かを判断することができる。ここでの「特別に」とは、当該手順の一部がこの全体の有利な効果を達成するために専門に提起されたものであることをいい、このような「特別」が存在するからこそ、手順の一部と全体の有利な効果との間に一体不可分な関係が形成される。また、方法の全体の有利な効果は方法全体における各手順が相互に連携して達成されるものであることから、手順の一部と全体の有利な効果とが一体不可分であるとき、当該手順の一部とその他の各手順、すなわち方法全体との間にも一体不可分な関係が存在する。
上述の分析過程は、実際には有利な効果を手がかりとして、方法における手順の一部と方法全体との一体不可分な関係を明らかにしたものである。明らかにしたこのような一体不可分な関係は、製品における各部品の接続関係に類似する。ただ、製品における接続関係は有形で目に見えるが、方法における上述の一体不可分な関係は無形で目に見えない。
手順の一部が方法の全体の有利な効果を達成するために「特別に」提起されたものであることをどのように証明するかというと、主には手順の一部と全体の有利な効果とが唯一の対応関係であるか否かを確定しなければならない。いわゆる「唯一」の対応とは、2つの面から分析することができる。
第一に、特定の手順の一部がその他の方法においても運用することができ、それによりその他の方法のために対応する有利な効果を達成することができるか否かを分析する。結論が「できる」であれば、つまりその手順の一部も本発明の方法から「分割」し、ほかの方法の有利な効果の達成に用いることができるということであり、その手順の一部と本発明の全体の有利な効果とは一体不可分な関係ではなくなる。
第二に、その手順の一部そのものがそれ自体の有利な効果も達成することができるか否かを分析する。結論が「できる」であれば、その手順の一部はそれ自体の有利な効果と本発明の全体の効果の両方に対応し、本発明の全体の有利な効果に必ずしも唯一対応するわけではなくなり、よって、それと本発明の全体の有利な効果とは一体不可分な関係ではないことになる。
それに関連して、実務においては次のことを避けなければならない。本発明の手順の一部が本発明の有利な効果の達成に対して貢献がありさえすれば、有利な効果と一体不可分な関係を有するという考え方は、確実に誤っており、かつ問題がある。
手順の一部と全体の有利な効果との一体不可分な関係において、手順の一部が「本発明」の全体の有利な効果を達成するために「特別に」提起されたものであるということを強調する点に誤りがある。ここでの「特別に」とは「専門に」に類似する。このような「特別」、「専門」が存在しない、すなわち、その手順の一部とほかの方法との間にも論理的なつながりが存在する場合は、当該手順の一部と「本発明」との間に一体不可分な関係が存在するということはできず、両者の間には論理的なつながりのみが存在する。
上述の「誤り」から生じる「問題」は明白である。手順の一部が本発明の有利な効果を達成するためにのみ用いられる(専門に用いられるわけではない)場合、その手順の一部と方法全体との間には一体不可分な関係があると考えられ、そうすると、次のような状況が生じる可能性がある。使用者の「使用」する手順の一部がその他の方法における手順でもあり、本発明における特有のものではない場合において、この手順の一部の使用が本発明の方法全体の使用でもあることが確定したならば、公衆の利益または他人の利益(その他の方法に対応して)まで、誤って特許権者の帰属とされる可能性が高い。
以上をまとめると、手順の一部が本発明の全体の有利な効果に「唯一」対応するか否かによって、手順の一部と方法全体との一体不可分な関係の判断を行うことができる。
注釈
[1]特許権の間接侵害は通常、権利侵害の幇助、教唆の形で現れ、これによりその適用範囲が限定されたものとなる。しかも、特許権の間接侵害の成立は直接侵害の存在を前提としなければならず、その根本的な要件によって特許権の間接侵害はなおも特許権直接侵害の判断をめぐる問題を避けることができない。さらに、中国の司法実務を見ると、特許権の間接侵害を構成すると判断するには、「専用品」などの特別な条件といった要件を満たさなければならない場合が多く、これにより権利侵害の判断における難度が高まっている。
[2]『現代漢語詞典(第7版)』北京、商務印書館、p.1190
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