専利民事行政交錯事件の処理に関する実務
北京市集佳法律事務所 戈暁美
専利権侵害訴訟において、本訴の権利基盤の効力に対して無効審判を請求することが、被疑侵害者の重要な抗弁事由である。専利の無効審判請求はしばしば専利権侵害訴訟手続きの中止をもたらすだけでなく、中国で実施されている民事・行政二元分立体制および専利権確定制度の多くの特徴に基づき、専利権侵害訴訟の一審、二審さらには再審と専利無効手続きの無効段階、審決取消訴訟の一審、二審さらには再審段階が、交錯し合い、関連し合う状況がしばしば発生する。
専利権侵害と専利無効手続きが関連する問題を解決し、専利権侵害紛争の審理効率を向上させ、審理期間が比較的長いという問題をできる限り解決するため、2016年に施行が開始された《司法解釈二》第2条【1】では「先行裁駁、另行起訴(専利権侵害訴訟において、国家知識産権局(専利復審委員会)が係争専利権の無効審決を下した後は、専利権侵害紛争事件を審理する法院は審決取消訴訟の最終結果を待たずに先に訴えを却下する裁定を下し、別途提訴する方式により権利者に司法救済手段を提供することができることをいう――訳注)」制度が定められている。本文では複数の典型事例を組み合わせ、権利者および被疑侵害者が当該制度を用いて専利民事行政交錯事件を処理する場合の複数の実務経験を分析、総括し、読者に紹介する。
一.専利無効審査の結果が訴訟手続きに及ぼす影響の分析
専利無効審判審決の結果は、専利権の全部無効、専利権の一部無効、専利権の有効性の維持の3種類に分けられる。
(1)「全部無効」については、《司法解釈二》に定める「先行裁駁、另行起訴」制度が明確な指針となっている。つまり、権利者が専利権侵害訴訟において主張する請求項が専利復審委員会に無効とされた場合は、専利権侵害紛争事件を審理する人民法院は権利者の当該無効請求項に基づく訴えを却下する裁定を下すことができる。
(2)「専利権の有効性の維持」については、比較的簡単である。権利侵害紛争を審理する法院はいかなる影響も受けることなく権利侵害事件の正常な審理を継続することができる。
(3)しかし「一部無効」については、有効部分と無効部分を区別して取り扱う必要がある、つまり有効部分は審理を継続し、無効部分は訴えを却下する処理方式が採られる。
例えば、上訴人の深セン市雲充吧科技有限公司と被上訴人の深セン来電科技有限公司の実用新案権侵害紛争事件【(2019)最高法知民終350号】【2】における、最高人民法院の見解は次のとおりである。専利権侵害訴訟期間に、係争専利の請求項の1件または複数の並列技術方案に対応する部分は無効とされたが、それ以外の並列技術方案に対応する部分は依然として有効性を維持し、専利権者が請求項の依然として有効性を維持する部分に基づき引き続き権利を主張する場合には、人民法院は無効とされた部分の請求項について訴えを却下し、有効性を維持する部分の請求項について審理し、裁定・判決を下すことができる。
上述の事例では並列技術方案の一部が無効とされ、一部が有効性を維持する場合について論じられているが、当該処理方式は同様に一部の請求項が無効とされ、一部が有効性を維持する場合にも適用される。
二.権利侵害訴訟手続きの権利者のための注意事項
権利侵害訴訟手続きの権利者にとって、その主張の根拠となる請求項が有効性を維持することが極めて重要である。実務において、専利権の有効性を維持するために、権利者は無効手続きにおいて請求の範囲を変更する可能性があり、変更方式には請求項の削除、技術方案の削除、請求項のさらなる限定、明らかな誤りの修正などがある。
専利の無効審判手続きにおける異なる変更方式および異なる結果について、権利侵害訴訟中の権利者は以下の点に注意する必要がある。
1.主張の根拠となる請求項に変化が生じた場合は、速やかに権利侵害紛争事件を審理する法院に権利基盤の変更を主張しなければならない。
《司法解釈一》第1条によると、権利者は権利基盤を変更する必要がある場合は、一審の法廷弁論が終了する前に変更を主張する必要がある。したがって、「無効審判審決」が権利侵害訴訟の一審の開廷日以前に下された場合は、権利者は一審の法廷弁論が終了する前に権利基盤の変更を主張する必要がある。
しかし、一審の法廷弁論が終了した後に、「無効審判審決」が下され、しかも権利者が主張する請求項に影響が及ぶ場合は、どのように処理すべきか。以下の事例を通じて説明する。
瀋陽飛行船数碼噴印設備有限公司と青島瀚澤電気有限公司の特許権侵害紛争事件【(2019)最高法知民終161号】において、権利者の飛行船公司は一審の法廷弁論が終了する前に変更前の原請求項1をその主張する保護範囲とすることを法廷の場で明確にした。これについて、済南市中級人民法院の一審における見解は次のとおりである。無効審決が下された後に、係争専利権1の内容はすでに変更が生じており、飛行船公司が本訴訟を提起した権利基盤が喪失していることから、原告の訴えを却下する。飛行船公司は一審判決を不服として、上訴を提起した。
これについて、最高人民法院知的財産権法廷の見解は次のとおりである。係争専利権が一部無効とされた後に、原審法院がまだ判決を下していない場合は、原審法院は法により権利者の飛行船公司に釈明し、権利者の飛行船公司が有効性を維持する請求項の範囲内でその保護範囲を主張する請求項を明確にしなければならない。しかし、原審法院は権利者の飛行船公司に請求項の手続法上の権利を再度明確にせず、釈明を経ずに飛行船公司の訴えを却下する裁定を直接下しており、法律の適用の誤りに該当する。
つまり、「無効審判審決」が一審の法廷弁論が終了した後に下されたとしても、この時に、一審法院がまだ一審判決を下していない場合は、権利者は依然としてその主張する権利基盤を変更する権利を有する。権利者は無効審判結果を知ってから即座に権利侵害法院と連絡を取り、変更事項を告知しなければならない。
2.権利者は「無効審決を受け取った日から」権利基盤の変更を申請することができる。
無効手続きの双方の当事者はいずれも専利の無効審決を受け取った日から3か月以内に北京知的財産権法院に訴訟を提起することができるが、言い換えると、無効審決はそれが下された日または受け取った日に発効するのではなく、審決取消訴訟の二審(終審)が終了した後に発効すると理解しなければならない。しかし前述の新たな請求項が依然として元の保護範囲内であり、最初から有効であるという理論基盤に基づけば、権利者が無効審決を受け取った日から権利基盤の変更を主張することができることは自明の理であり、当該無効審決の発効日を待つ必要はない。
例えば、特許仮保護期間実施料・特許権侵害紛争事件【(2015)京知民初字第338号】において、(権利侵害訴訟の)被告が請求した無効審判に対して、専利復審委員会が無効審決を下し、(権利侵害訴訟の)原告が変更した請求項1-69に基づき引き続き専利権の有効性を維持した。その後、開廷前会議において、(権利侵害訴訟の)原告は有効性を維持する請求項に基づき自身が主張する権利基盤をさらに明確にした。
これについて、北京知的財産権法院の一審における見解は次のとおりである。係争専利権は被疑侵害製品の製造、販売時にはまだ有効期間内にあり、関連の無効審決においても(権利侵害訴訟の)原告が2015年7月6日に提出した請求項1-69に基づき係争専利の有効性の維持がすでに決定していることから、関連の行政または司法手続きが係争専利の有効性に対して否定的な評価を下したことを証明する証拠がない状況の下で、係争専利は本件において有効な専利として保護しなければならない。
特に、本件の審理と同時に、係争専利の無効審決に関係する専利無効行政紛争事件も本院が審理しているが、当該行政紛争事件の審理過程において、本院は被告、専利復審委員会および(権利侵害訴訟の)原告の意見を十分に聴取するとともに、行政事件における関連の請求項の解釈、保護範囲の確定などの争点の認定を本件の審理過程に組み入れ、無効審決の結論が正確であることを最終的に認定した上で、本件の審理を行った。
以上より、権利者は無効審決を受け取った日から、直ちに有効性を維持する請求項に基づきその主張する権利基盤を変更することができ、無効審決の発効日を待つ必要がないことが分かる。
3.権利者が無効手続きにおいて主体的に放棄した請求項は、専利権の保護範囲に再び加えることができない。
上訴人の山東陽谷達盛管業有限公司、山東卓睿達盛管業有限公司と被上訴人の順方管業有限公司の実用新案権侵害紛争事件【(2019)最高法知民終145号】における、最高人民法院の見解は次のとおりである。権利者が係争専利の無効審判行政手続きにおいて請求項を削除する方式により民事権利侵害事件において権利を主張する根拠となる請求項を主体的に放棄した場合は、当該放棄行為が記載された行政決定の効力が最終的に確定したか否かにかかわらず、放棄された請求項はいずれも回復する可能性がなく、専利権侵害紛争において再び専利権の保護範囲に加えることはできず、権利侵害の主張の根拠となる権利基盤はもはや存在せず、関連の訴訟上の請求は判決方式により却下することができる。
4.権利者が訴えを却下する裁定を受けた後に、原審で認定された事実と証拠資料は適切に保管する必要がある。
「先行裁駁、另行起訴」制度によると、係争専利が後続専利の無効審決取消訴訟手続きにおいて「復活」した状況の下で、権利者は別途訴訟を提起することができ、別途訴訟を提起する時間的な節目は上述の請求項の無効審決が発効した行政判決(一般的に審決取消訴訟の判決をいう――訳注)により取り消された時点である。
事件によっては審決取消訴訟の一審、二審さらには再審を経ることを考慮すると、発効した裁定・判決文を取得するには通常の場合2~3年またはそれより長い時間を必要とするが、この期間に、権利者は被疑侵害に係る証拠および証拠物件を適切に保存し、証拠の毀損または滅失を防ぐことにより、後続の別件の訴訟における権益保護に差し障りがないようにしなければならない。
例えば、宇龍計算機通信科技(深セン)有限公司と小米通訊技術有限公司、小米科技有限責任公司、小米之家商業有限公司の特許権侵害紛争事件【(2019)最高法知民終507号】において、係争専利が一審手続きにおいて全部無効となり、一審法院が権利者の訴えを却下する裁定を下し、原審原告の宇龍公司がそれを不服とし、上訴を提起したが、その請求内容は次のとおりである。本件は訴訟中止の裁定を下すべき事由に該当し、訴えを却下すべき事由ではない。本件が訴えを却下され、ひとたび法院が無効審決を取り消した場合には、宇龍公司は再度訴訟を提起するしかなく、間違いなく専利権者の負担は増し、さらには保全された証拠の損壊または滅失のリスクが発生することにより、将来的に再度訴訟を提起した場合に権利侵害を判断するための対比ができなくなる可能性があり、知的財産権の保護にとって不利である。
これについて、最高人民法院知的財産権法廷の二審における見解は次のとおりである。当該規定(《司法解釈二》第2条)はまさにこのような影響を緩和するために制定された「先行裁駁、另行起訴」制度に関する規定であり、専利権侵害訴訟の審理効率の向上にとって有益であるとともに、権利者の訴権に影響を及ぼさない。本件において、宇龍公司が訴訟を提起する根拠となる係争専利の請求項はすでに国家知識産権局により無効とされており、原審法院がこれに基づき宇龍公司の訴えを却下する裁定を下したことは上述の規定に適合する。上述の無効審決が最終的に発効した行政判決により取り消された場合は、宇龍公司は別途訴訟を提起し、引き続き小米通訊公司などに権利を主張することができ、その訴権と実体的権利はいかなる不利な影響も受けることはない。事件に係る証拠資料が損壊または滅失するか否かは未知の状況に該当し、しかもこのような可能性があるとしても、当事者のために証拠を保存、提供しなければならず、それにより負う必要があるリスクは、本件が訴えを却下する裁定を下されるか否かとは関係がない。
三.権利侵害訴訟手続きの被疑侵害者のための注意事項
1.係争請求項が無効とされ、対比を経て明らかに権利非侵害であると判断した場合は、法院に審理の継続と裁定・判決を要求することができる。
専利権侵害訴訟事件において、係争専利権が無効とされた場合に、被疑侵害者が講じる最初の手順は権利侵害を判断するための対比の実施でなければならず、対比を経て被疑侵害方案に権利侵害がないと確認することができる場合、特に一審または二審がすでに開廷し権利侵害を判断するための対比が行われた後は、被疑侵害者は法院に対して、訴えを却下する裁定の申立てではなく、審理の継続および判決の意見を提出することができる。
北京微卡時代信息技術有限公司、卓望信息技術(北京)有限公司と財付通支付科技有限公司、騰訊科技(深セン)有限公司、凡客誠品(北京)科技有限公司の特許権侵害紛争事件【(2020)最高人民法院知民終1325号】において、一審判決で事件に係る微信(Wechat)二次元コード決済技術方案が係争専利権の保護範囲に該当しないことが認定された。権利者側は上訴を提起した。本件二審期間に、係争専利権が無効とされた。
これについて、最高人民法院は二審判決において、「先行裁駁、另行起訴」規則に基づく法律の適用は状況を区別し、状況に応じて適用することにより訴訟効率を向上しなければならないとの見解を示した。
まず、対比を経て、被疑侵害技術方案が専利権の保護範囲に該当しない場合は、法院は被疑侵害技術方案と係争専利は異なる技術方案に該当すると判定することができ、訴訟を中止しまたは訴えを却下する裁定を下す必要はなく、被告の権利非侵害を直接判定することができる、つまり訴訟上の請求を却下することができる。
次に、対比を経て、被疑侵害技術方案が係争専利権の保護範囲に該当し、さらに被疑侵害者が無効審判を請求し、専利権の安定性を抗弁事由として提出した場合には、法院は専利権の安定性を考慮する必要があり、審理の中止または国家知識産権局が無効としてから、司法が専利権の安定性の効力を確認するまでに訴えを却下する裁定を下すことができる。上述の請求項の無効審決が、発効した行政判決により取り消されたことを証明する証拠がある場合には、権利者は別途訴訟を提起することができる。
筆者の考えでは、当該事例は「先行裁駁、另行起訴」規則の適用に新たな処理の考えを提示するものである。権利非侵害を認定することができる状況の下でも、依然として訴えを却下すれば訴訟効率は低下するが、この時に法院が技術方案の間の共通点と相違点を速やかに確認することができれば、当事者にその商業行為の適法性に対して合理的期待を持たせることができ、それにより双方の当事者間の紛争を実質的に解決することができる。
2.係争請求項が無効とされた場合は、権利侵害法院に訴えを却下する裁定の申立てを提出することができる。
前述の最初の手順において、被疑侵害方案が権利侵害を構成しないことを説明するのに十分な理由がなく、特に一審法院がまだ係争専利と被疑侵害技術方案に対して権利侵害を判断するための対比を実質的に行っていない状況の下で、被疑侵害者は権利侵害事件を審理する法院に「無効審決」をできる限り早く提出し、訴えを却下する裁定を申し立てることができる。権利侵害紛争事件を審理する法院は通常の場合「先行裁駁、另行起訴」規則に基づき、権利者の訴えを却下する裁定を下す。
例:江蘇通領科技有限公司と公牛集団股份有限公司などの専利権侵害紛争事件【(2018)蘇01民初3440号などおよび(2020)最高法知民終227号など】において、通領公司は2018年12月に南京市中級人民法院で公牛に対するコンセントの安全性に関する10件の専利権侵害訴訟を提起し、賠償請求金額が9億9,900万元であった。この一連の事件に関係する専利は、特許ZL201010297882.4「サポートスライド式安全シャッター」と実用新案ZL201020681902.3「電源コンセント安全保護装置」の2件である。2019年7月に、国家知識産権局が第40759、40829号無効審決を下し、上述の2件の専利の全部を無効とした。
実用新案ZL201020681902.3「電源コンセント安全保護装置」に関する5件の訴訟において、南京市中級人民法院は一審で通領公司の訴えを却下した。通領公司は上訴を提起し、一審の「民事裁定書」を取り消し、事件の南京市中級人民法院への差戻しを請求した。これに対して、最高人民法院知的財産権法廷は2020年4月20日に終審の裁定を下し、通領公司の上訴を却下し、原裁定を維持した。
特許ZL201010297882.4「サポートスライド式安全シャッター」に関する5件の訴訟において、通領公司は無効にされことを理由として、一審法院に訴えの取下げを申請した。2019年7月に、南京市中級人民法院は一審で「民事裁定書」を発出し、通領公司の訴えの取下げの申請を認めた。
ある特定の状況の下で、原告は主体的な訴えの取下げを選択することがあり、法院も通常は訴えの取下げを認める。したがって、権利侵害訴訟の一審において、権利者が主体的に訴えを取り下げても、法院が訴えを却下する裁定を下しても、この2種類の処理方式の法律効果は共に同じであり、つまり係争専利が後続専利の無効審決取消訴訟手続きにおいて「復活」した状況の下で、権利者は別途訴訟を提起することができる。
しかし、権利侵害訴訟の二審手続きにおいて、権利者が訴えの取下げを申請した場合は、被疑侵害者の処理方式はやや異なる。
(1)訴えの取下げの申請に同意しない場合は、二審法院の通常の方法は権利者の訴えを却下する裁定を下すとともに、併せて一審判決を取り消すことである。係争専利が後続専利の無効審決取消訴訟手続きにおいて「復活」した状況の下で、権利者は別途訴訟を提起することができる。
(2)訴えの取下げの申請に同意する場合には、二審法院は訴えの取下げを認めるとともに、併せて一審判決の取消しの裁定を下すことができる。さらに権利者が二審手続きにおいて訴えを取り下げた後に再度訴訟を提起した場合は、人民法院はこれを受理しない。
3.係争請求項が終審の行政判決により実質的な権利付与要件を備えていないことが認定された場合は、「先行裁駁、另行起訴」規定を参照、適用することができる。
ある特定の事件において、国家知識産権局の係争専利権に対する「無効審決」により専利権の有効性が維持されたが、終審の行政判決により当該決定が取り消され、係争専利の請求項が実質的な権利付与要件を備えていないことが認定されることがある。このような状況の下で、被疑侵害者は「先行裁駁、另行起訴」規定を参照、適用することを主張し、終審の行政判決に基づき権利者の訴えの却下を申し立てることができる。
例えば、曹桂蘭、胡美玲、蒋莉、蒋浩天と重慶力帆汽車銷售有限公司、重慶力帆乗用車有限公司、江蘇驊盛車用電子股份有限公司、南京九華山汽車銷售服務有限責任公司、力帆実業(集団)股份有限公司、杭州亜凡汽車有限公司の特許権侵害紛争事件【(2018)蘇民再47号】において、係争専利はZL200710019425.7「シャークフィン型アンテナ」の特許権である。原国家知識産権局の第25637号審決により係争専利の有効性が維持された。力帆公司は当該無効審決を不服として審決取消訴訟を提起し、さらに一審の北京知的財産権法院および二審の北京市高級人民法院で連続して敗訴したが、最高人民法院は2019年12月の再審において、当該審決の関連の請求項1の進歩性の認定に誤りがあると判断し、当該審決を取り消した【(2019)最高法行再268号】。
江蘇省高級人民法院の再審における見解は次のとおりである。「先行裁駁、另行起訴」規定の目的は専利民事権利侵害訴訟事件における決定が先送りになる、手続きが先に進まないという問題を回避することである。専利復審委員会が審決を下し、係争専利権の有効性が維持されたが、当該審決が最高人民法院の終審の行政判決により取り消された。当該行政判決の判決理由から見ると、最高人民法院は係争専利の請求項1は進歩性という専利の実質的な権利付与要件を備えていないことを理由に当該審決を取り消した。以下の要素を考慮し、本件は当該法条を参照、適用する要件を備えており、曹桂蘭など4名の係争専利の請求項1に基づく訴えは却下する。
しかし、注意すべきは、被疑侵害者が別途訴訟を提起するための根拠が終審の行政判決ではなく、一審の未発効の行政判決である場合は、「先行裁駁、另行起訴」規定を参照、適用してはならないということである。
例えば、再審請求人の無錫国威陶瓷電器有限公司と被請求人の鎮江市志嘉電器有限公司などの実用新案権侵害紛争事件において、専利復審委員会第24085号審決で係争専利の請求項1-6の有効性が維持され、北京知的財産権法院71号行政判決で第24085号審決が取り消されたとともに、判決が変更され、係争専利の請求項1の無効が認定された。しかしその後専利権者は一審判決に対して上訴を提起した。
これについて、江蘇省高級人民法院の二審の見解は次のとおりである。北京知的財産権法院が専利の権利付与と権利確定に係る行政事件の専属管轄法院であり、つまり法により行政客体が不服とする専利復審委員会の無効審判請求審決に対して司法審査を行う司法機関であることを考慮すると、当該法院が行う専利の請求項が有効であるか否かの認定は、手続き上で専利権確定の行政手続きにおける最終的な認定により近いものになる。したがって、本件の状況と上述の司法解釈に定める適用事由に本質的な違いはなく、上述の司法解釈を参照、適用することができる。
最高人民法院は再審で二審判決を取り消し、次の点を強調した。「先行裁駁、另行起訴」規定の適用は司法解釈の上述に定める制度の目的および適用要件を考慮し、規定の適用後に起こり得る行政と司法手続きの繰返し、紛争の実質的な解決に不利になるなどの問題を回避しなければならない。具体的に本件について言うと、当事者が一審判決を不服として上訴を提起し、第24085号審決の後続の審決取消訴訟はすでに二審手続きに進んでいる。したがって本件に関係する状況と《解釈二》第2条に定める「権利者が専利権侵害訴訟において主張する請求項が専利復審委員会により無効とされた場合」を適用する前提は一致しない。つまり、本件の状況は《解釈二》第2条の「先行裁駁、另行起訴」規定の制度の目的と適用事由に適合せず、二審法院が当該規定を参照、適用することには、法律の適用に誤りが存在する。
4.係争専利権が無効とされたとしても、被疑侵害者は依然として権利非侵害確認訴訟を提起する権利を有する。
係争専利権が無効とされた場合において、被疑侵害者が法院の訴えを却下する裁定により自己の生産・経営を合理的に期待する安全な状態を維持することができないと判断したときは、権利非侵害確認訴訟を提起することもできる。「先行裁駁、另行起訴」規則は被警告者が専利権非侵害確認訴訟を提起する場合の障害を構成しない。
東莞銀行股份有限公司と張学志の専利権非侵害確認請求紛争事件【(2020)最高法知民終225号】において、張学志は無効とされた専利権に基づき東莞銀行に権利侵害警告書を発送し、その中で自身がすでに係争専利の無効審決について北京知的財産権法院に訴訟を提起したことを告知した。張学志はさらにApple社に東莞銀行のアプリが権利侵害に抵触するとの苦情を申し立てた。東莞銀行は警告書を受け取った後に張学志に催告書を発送し、関連の苦情を直ちに取り下げ、または速やかに人民法院に関連の権利侵害訴訟を提起することを要求した。
広州知的財産権法院は一審で東莞銀行の訴えを受理しないとの裁定を下した。その理由は、係争専利がすでに全部無効とされた状況の下で、東莞銀行がその専利権非侵害を確認する訴訟上の請求は事実に基づく根拠に欠けることである。
これについて、最高人民法院の二審における見解は次のとおりである。専利権の無効審判請求審決はひとたび下されれば直ぐに法的効力を生じるというものではなく、法律に定める提訴期間が満了し、当事者が訴訟を提起せずまたは当該決定を維持する裁定・判決が発効した後に初めて、当該決定は法的効力を生じる。したがって、専利権の無効審決が発効していない状況の下で、専利権の有効性を否定する効力は生じず、権利者が発送した権利侵害警告は依然として権利基盤を有する。
また、判決では「先行裁駁、另行起訴」規則を専利権非侵害確認訴訟に適用するか否かの問題について強調されており、それによると、「先行裁駁、另行起訴」規則の目的は専利権侵害紛争事件の審理効率を向上させ、審理期間が比較的長いことによる影響をできる限り緩和することであり、司法解釈に定める専利権者が提起した権利侵害訴訟にのみ適用される。被警告者が提起した専利権非侵害確認訴訟の目的は専利権者が発出した権利侵害警告により被警告者が置かれる不安定な状況を排除することである。両者の制度の目的が異なることから、司法解釈の当該条項に定める「先行裁駁、另行起訴」は被警告者が専利権非侵害確認訴訟を提起する場合の障害を構成しない。法院が審理を経て被警告者の行為が専利権侵害を構成しないと認定した場合は、権利非侵害を確認する旨の判決を直接下すことができる。法院が審理を経て被警告者の行為が専利権侵害を構成すると認定した場合は、訴訟結果の繰返しを回避するために、審理を中止し、専利権確定審決取消訴訟の結果を待つことができる。
四.まとめ
本文では、司法実務における「先行裁駁、另行起訴」規則の応用に関する典型事例の分析、総括を通じて、専利権侵害訴訟の権利者と被疑侵害者が専利民事行政交錯事件を処理するための複数の経験を紹介した。
権利者への参考として、(1)主張の根拠となる請求項に変化が生じた場合は、速やかに権利侵害法院に権利基盤の変更を主張しなければならない。(2)権利者は「無効審決を受け取った日から」権利基盤の変更を申請することができる。(3)権利者が無効手続きにおいて主体的に放棄した請求項は、専利権の保護範囲に再び加えることができない。(4)権利者が訴えを却下する裁定を受けた後に、原審で認定された事実と証拠資料は適切に保管する必要がある。
被疑侵害者の参考として、(1)係争請求項が無効とされ、対比を経て明らかに権利非侵害であると判断した場合は、法院に審理の継続および裁定・判決を申し立てることができる。(2)係争請求項が無効とされた場合は、権利侵害法院に訴えを却下する裁定の申立てを提出することができる。(3)係争請求項が終審の行政判決により実質的な権利付与要件を備えていないことが認定された場合は、「先行裁駁、另行起訴」規定を参照、適用することができる。(4)係争専利権が無効とされたとしても、被疑侵害者は依然として権利非侵害確認訴訟を提起する権利を有する。
注釈
【1】《専利権侵害紛争事件の審理における法律の応用に係る若干の問題に関する最高人民法院の解釈(二)》
第2条 権利者が専利権侵害訴訟において主張する請求項が専利復審委員会に無効とされた場合は、専利権侵害紛争事件を審理する人民法院は権利者の当該無効請求項に基づく訴えを却下する裁定を下すことができる。
上述の請求項を無効とする審決が発効した行政判決により取り消されたことを証明する証拠がある場合には、権利者は別途訴訟を提起することができる。
専利権者が別途訴訟を提起した場合には、訴訟時効期間は本条第2項における行政判決書の送達日から計算する。
【2】当該事例の出典は「最高人民法院知的財産権法廷裁定・判決要旨(2019)」裁定・判決規則の12である。
|